山脇啓造
2006年3月に、総務省は「地域における多文化共生推進プラン」(以下、多文化共生プラン)を策定し、各都道府県・指定都市外国人住民施策担当部局長に通知しました。多文化共生プランの通知以降、全国の多くの自治体が多文化共生の指針や計画を策定しました。
それから11年後の2017年3月に、総務省は「多文化共生事例集-多文化共生推進プランから10年 共に拓く地域の未来」を公表しました。多文化共生に資する全国の優良な取り組みとして52事例をまとめたもので、多文化共生プランの構成をもとに、コミュニケーション支援(9事例)、生活支援(28事例)、多文化共生の地域づくり(9事例)に分けていますが、今回、新たに「地域活性化やグローバル化への貢献」(6事例)という項目が立てられています。これは、外国人住民が支援の受け手ではなく、支援の担い手、あるいは地域社会に貢献する存在となっている事例を集めたものです。
多文化共生プランの策定以来、全国の自治体が多文化共生に取り組むようになりましたが、その多くは外国人支援に関するものでした。外国人支援も多文化共生を進めるうえで必要不可欠ではありますが、近年、外国人住民の存在を肯定的に捉え、その力を生かした取り組みに注目が集まっており、これを筆者は「多文化共生2.0」(バージョンアップした多文化共生)と呼んでいます。こうした動きの先頭を走っているのが浜松市で、2013年3月に外国人がもたらす多様性を生かしたまちづくりをめざした「多文化共生都市ビジョン」を策定しています。
実は、こうした動きは欧州でも起きています。2008年に欧州評議会と欧州委員会が始めたインターカルチュラル・シティ・プログラムが代表例で、参加都市数は当初の11から約120にまで増えています。同プログラムに参加する都市は欧州域外にも広がりつつありますが、国際交流基金のイニシアティブで日欧都市の交流も進み、特に2012年には東京と浜松で多文化共生都市サミットが開かれ、日韓両国と欧州の自治体首長が参加しています。
多文化共生事例集は、多文化共生プランと比較して、「多文化共生2.0」の観点を取り入れていることが大きな特徴といえますが、行政や地域国際化協会、NPOの他、企業の取り組みが紹介されていることももう一つの特徴といえます。行政と企業が連携した取り組みだけでなく、企業が単独で取り組んでいる3つの事例や業界団体の事例も、コラムの形で紹介されています。
また、今回の事例集では、事例紹介に入る前に、過去10年の外国人を取り巻く状況の変化を分析し、国と地方における政策動向を紹介するとともに、多文化共生に関する各分野の課題を手短に整理しています。さらに、事例紹介の後には、現在の多文化共生施策の傾向や海外の自治体の動きに言及しつつ、今後の方向性を探っています。海外の取り組みとして、インターカルチュラル・シティ・プログラムも紹介されています。
なお、総務省の多文化共生事例集が公表された翌週には、欧州評議会のインターカルチュラル・シティ・プログラムのウェブサイトに、同事例集の公表や日本の自治体の同プログラムへの関心の高まりについて紹介した記事が掲載されています。
総務省:地域における多文化共生推進プラン
総務省:多文化共生事例集の公表(2017年3月31日)
Council of Europe:Is Japan turning intercultural?