コラム

第14回 骨太方針

山脇啓造

今年の「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる骨太方針が6月15日に閣議決定され、「新たな外国人材の受入れ」の方針が示されたことが大きく報道されました。骨太方針に示された外国人に関する方針が今回のように注目されたのは初めてのことです。

今回の方針は、(1)一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる新たな在留資格の創設、(2)従来の外国人材受入れの更なる促進、(3)外国人の受入れ環境の整備の三つの柱から成り立っていますが、大きな注目を集めたのは、(1)の新たな在留資格の創設でした。

「従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある。」とありますが、これは要するに、外国人労働者受け入れの基準を緩和するということです。報道によれば、「特定技能」という在留資格を新設し、建設、造船、農業、介護、宿泊といった分野での受け入れを始めるようです。この資格の対象となるのは、一定の技能と日本語能力を有する外国人で、在留期間の上限を通算で5年とし、家族の帯同は基本的に認めません。

報道機関によって大きく取り上げられたのは、新設する在留資格と技能実習制度との関係です。同制度は、発展途上国への技能移転をめざし、労働力需給の調整手段としてはならないことを謳いながら、実態としては、低賃金外国人労働者確保の仕組みとなっています。「技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護」を図ることを謳った技能実習法が昨年11月に施行され、在留期間が最大3年から5年に延長されたばかりですが、技能実習(3年)を修了した者については、必要な技能水準及び日本語能力水準を満たしているものとし、自動的に「特定技能」への切り替えが可能となります。従って、技能実習生の場合、8年から10年の在留が可能となります。

さらに注目されているのは、新設する在留資格による滞在中に「一定の試験に合格するなどより高い専門性を有すると認められた者については、現行の専門的・技術的分野における在留資格への移行を認め、在留期間の上限を付さず、家族帯同を認めるなどの取扱いを可能とするための在留資格上の措置を検討する」とある点です。

多文化共生の観点から、筆者が一番注目しているのは、(3)の「外国人の受入れ環境の整備」です。

我が国で働き、生活する外国人について、多言語での生活相談の対応や日本語教育の充実をはじめとする生活環境の整備を行うことが重要である。このため、2006 年に策定された「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」を抜本的に見直すとともに、外国人の受入れ環境の整備は、法務省が総合調整機能を持って司令塔的役割を果たすこととし、関係省庁、地方自治体等との連携を強化する。このような外国人の受入れ環境の整備を通じ、外国人の人権が護られるとともに、外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組んでいく。

「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」は、2006年の総務省「地域における多文化共生推進プラン」を契機に、国が初めて策定した社会統合政策(外国人を社会の一員として受け入れるために環境整備を進める政策)の指針です(拙稿「総務省多文化共生プランFAQ」参照)。同対応策は、「日本で働き、また、生活する外国人について、その処遇、生活環境等について一定の責任を負うべきものであり、社会の一員として日本人と同様の公共サービスを享受し生活できるような環境を整備しなければならない」ことを国が初めて認めた重要な指針といえます。

筆者は、2000年代から多文化共生(社会統合)を推進する法律の制定と政府組織の設置を唱えてきましたが、今回、初めて法務省が司令塔的役割を果たすべきことを示した点に特に注目しています。日本では、これまで、法務省が出入国管理政策を所管する一方で、社会統合政策は、内閣府、総務省、厚生労働省、国土交通省、文科省、文化庁などの府省庁がそれぞれ所管の行政分野の中で担ってきました。韓国や台湾を含め、大半の先進国は、社会統合を進める法律を制定し、司令塔的役割を果たす政府組織を定めていますが、果たして、法務省にその役割、特に地方自治体との連携を担えるでしょうか。

 最後に、今回、骨太方針と同時に閣議決定された地方創生の方針である「まち・ひと・しごと創生基本方針」も紹介したいと思います。地方創生は、2014年以来、政府が力をいれている取り組みで、毎年、基本方針を定めています。ほとんど報道されることはありませんでしたが、今回初めて、「地方における外国人材の活用」が打ち出されました。具体的には、「外国人材による地方創生支援制度の創設」が示されています。

地方創生の取組によるインバウンドや地元産品輸出の拡大の活発化、在留外国人の更なる増加に伴う、多文化共生等の充実等により、地方公共団体においては、外国人材の活用ニーズが高まることが見込まれる。これに対応すべく、これまでの取組に加え、アジアや中南米をはじめとした在外の親日外国人材を掘り起こし、外国人材と地方公共団体のそれぞれのニーズをマッチングさせるための仕組みを構築する。また、地方公共団体等における外国人材が多様な活動ができるようにするため、複数の在留資格にまたがる活動に従事することが可能となるよう包括的な資格外活動許可を新たに付与する。さらに、日本の大学等を卒業した外国人留学生がその専門能力を十分に発揮できるよう高度人材ポイント制の拡充や在留資格変更手続きの簡素化等を行う。また、外国人材の地域での更なる活躍を図るとともに、地域における多文化共生施策を一層推進する。

筆者は、拙稿「地方創生と多文化共生」でも取り上げたように、今後、地方創生の取り組みにおいても、多文化共生の観点が重要になっていくと考えていますが、政府の後押しによって、こうした傾向は一気に加速するかもしれません。

*経済財政運営と改革の基本方針2018

*まち・ひと・しごと創生基本方針2018

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