山脇啓造
筆者は、2000年代から多文化共生(社会統合)を推進する法律の制定と組織の設置を唱えてきましたが、6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)において、法務省が「司令塔的役割」を果たすべきことが示された点に注目しています。日本では、これまで、法務省が出入国管理政策を所管する一方で、社会統合政策は、内閣府、総務省、厚生労働省、国土交通省、文部科学省、文化庁などの府省庁がそれぞれ所管の行政分野の中で担ってきました。結果的に、政府としての取り組みの一体性に欠け、政策の方向性が示されない状態が続いてきたといえます。
政府としての統合政策の当面の対応策を示したものとしては、2006年に策定された「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」があります。これは、「我が国としても、日本で働き、また、生活する外国人について、その処遇、生活環境等について一定の責任を負うべきものであり、社会の一員として日本人と同様の公共サービスを享受し生活できるような環境を整備しなければならない」という認識のもとに策定されました。
この時には、社会統合を推進する法律や組織の問題は取り上げられませんでした。その後、2009年1月に内閣府の政策統括官(共生社会政策担当)のもとに定住外国人施策推進室が置かれ、「日系定住外国人施策に関する基本指針(2010年8月)」、「日系定住外国人施策に関する行動計画(2011年3月)」、「日系定住外国人施策の推進について(2014年3月)」が策定されました。
6月の骨太方針では、「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」を抜本的に見直すことを謳っていますが、7月24日に開催された「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の初会合において、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(検討の方向性)」(案)が示されました。「我が国としても、日本で働き、学び、生活する外国人の処遇や生活環境等について、一定の責任を負うべきものである。外国人を、孤立させることなく、社会を構成する一員として受け入れていくという視点に立ち、外国人との共生社会の実現に向け、外国人が日本人と同様の公共サービスを享受し、生活できる環境を整備しなければならない」(下線部は今回、新たに加筆された部分)という認識が示されています。また、この中には、「多文化共生社会の実現に向けた意見聴取・啓発活動」や「生活者としての外国人に対する支援」が含まれています。
7月24日の閣僚会議では、「外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針について」が閣議決定され、「出入国の管理、本邦における外国人の在留、人権の擁護等を所掌する法務省が、外国人の受入れ環境の整備に関する企画及び立案並びに総合調整を行うこととし、その司令塔的機能の下、関係府省が連携を強化し、地方公共団体とも協力しつつ、外国人の受入れ環境の整備を効果的・効率的に進める」ことが示されました。この結果、内閣府が2009年以来所管してきた「日系定住外国人施策」は、同日付けで法務省が担うこととなりました。
実は、先進国の大半では、社会統合を進める法律を制定し、担当組織を定めています。例えば、ドイツでは、2005年1月に移住法が施行され、移民がドイツ語やドイツの法秩序・文化・歴史を学ぶ統合コースが始まりました。統合コースを所管するのは、内務省に新設された連邦移住難民庁(BAMF)です。但し、ドイツには移住・難民・統合担当官という国務大臣のポストもあり、全国統合計画や統合に関する全国行動計画を所管しています。また、ドイツは連邦制なので、州政府にも統合政策、特に教育政策の権限があります。
一方、韓国は、2007年に在韓外国人処遇基本法を制定し、出入国管理局を出入国・外国人政策本部に改編することで、法務部(法務省に相当)が司令塔的役割を担い、韓国語や経済、社会、法律などの基本素養を体系的に習得することができる社会統合プログラムを実施しています。2008年には多文化家族支援法を制定し、「多文化家族」(国際結婚家族)の支援を始めました。こちらは、女性家族部が所管しています。また、台湾では、1999年に入出国及移民法が制定され、2007年に内政部(内務省に相当)に入出国及移民署(2015年に移民署に改称)が設置され、台湾の移民受入れ体制が整備されました。
諸外国の実態を見ると、司令塔的役割を担う組織を定めても、統合政策は幅広い行政分野に関わってくるため、なかなか政府として一体的な取り組みを進めるのは難しいようです。
日本政府は、入管局を強化して入国管理庁とすることで、法務省が司令塔的役割を果たすことを考えていますが、統合政策を推進するためには、省内で帰化行政を担う民事局や人権行政を担う人権擁護局との連携が欠かせないでしょう。また、地方自治体との連携も大きな課題と言えます。そして、多文化共生(社会統合)を推進する法律は制定されるでしょうか。諸外国の取り組みを参考に、日本も早急に多文化共生(社会統合)に関する制度設計を考える時がやってきました。