山脇啓造
2018年12月25日に、第3回外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議が開かれ、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」、及び「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が取りまとめられました。
同会議の中で、安倍晋三首相は、「外国人の皆さんが暮らしやすい地域社会づくりのために取りまとめた総合的対応策においては、医療、保健、教育、住宅、金融・通信サービスなど生活の様々な場面を想定して、全126に及ぶ具体的な施策を策定し、総額224億円(後日211億円に訂正、筆者注)の予算を措置いたしました。全国100か所に一元的相談窓口を設置・運営するため、地方公共団体に20億円規模の財政支援を行うなど、地方の負担に配慮した施策や、留学生の就職を促進する方策など、実効性のある新しい対策を盛り込んでいます。」と語っています。
政府が、外国人住民に関する総合的対応策をまとめるのは、2006年12月の「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」以来となります。2006年の総合的対応策は全体で11頁でしたが、今回の総合的対応策は31頁もあります。
今回の総合的対応策の目玉は、上記発言で首相も言及している「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮)」の設置(施策番号7)と言えるでしょう。都道府県、指定都市及び外国人が集住する市町村約100か所において、自治体が情報提供及び相談を行う一元的な窓口を設置することを支援すると言います。その他に、「外国人との共生社会の実現に向けた意見聴取・啓発活動等」、「生活者としての外国人に対する支援」関連の98施策の中で、私が注目しているのは以下の施策です。
外国人に対する基礎調査(法務省、施策番号2)、生活・就労ガイドブック(仮)の作成(法務省他、施策番号9)、地方創生推進交付金による支援(内閣府等、施策番号15)、外国人支援者のネットワークの構築(法務省等、施策番号16)、外国人材による地方創生支援制度(内閣官房他、施策番号17)、自治体向けの多文化共生アドバイザー制度の創設と都道府県単位で自治体が情報共有を行うための会議の開催と各都道府県において共生社会の実現に向けた会議の設置(総務省、法務省、施策番号18)、外国人患者が安心して受診できるために都道府県内の関係者が連携した協議会の設置(厚労省、施策番号20)、地域の基幹的医療機関における医療通訳や医療コーディネーターの配置(厚労省、施策番号21)、電話通訳の利用促進による全ての医療機関における外国語対応の推進(厚労省、施策番号22)、住宅セーフティネット法に基づいた外国人の居住支援等の促進(国交省、施策番号41)、都市再生機構の賃貸住宅における外国人との共生の取組の推進(国交省、施策番号42)、一定の水準を満たした日本語の学習機会が外国人に行き渡ることを目指した自治体の総合的な体制づくりのための取組の支援(文科省、施策番号48)、公立学校における日本語指導体制の構築や日本人と外国人が共に学び理解し合える授業の実施等、自治体が行う外国人児童生徒等への支援体制整備の支援(文科省、施策番号61)、「モデル・プログラム」の開発・普及を通じた外国人児童生徒等教育を担う教員等の資質能力の向上(文科省、施策番号63)、「外国人児童生徒受入れの手引き」の改訂(文科省、施策番号65)
この中で、特に注目しているのは、地方創生関連施策と医療通訳関連施策です。地方創生推進交付金は総額1000億円ですが、どのぐらいが「外国人材の活躍と共生社会の実現」への支援に使われるでしょうか。「全ての居住圏において外国人患者が安心して受診できる体制の整備」はいつ頃できるでしょうか。
今回の総合的対応策には、「外国人との共生についての地方公共団体や企業、地域コミュニティ等の意識の向上」を図る取り組みやヘイトスピーチへの対策がほとんど含まれておらず、全体的に外国人支援に偏り、共生社会づくりの視点が弱いといえるでしょう。情報の多言語化に力点を置きつつ、日本語を学んでいる外国人等が理解しやすい「やさしい日本語」に一切言及していない点も気になります。「基本的な考え方」の最初に、多文化共生とは直接関係しない訪日外国人旅行者数を紹介しているのも残念な点です。
なお、私は、2000年代初めから、多文化共生社会の形成を推進する法律の制定と組織の設置を唱えています。今回の総合的対応策には、そうした体制整備に関する言及がないことも指摘しておきたいと思います。