山脇啓造
2019年4月に改正入管法(2018年12月8日成立)が施行され、日本政府は「深刻な人手不足の状況に対応するため、一定の専門性・技能を有し、戦力となる外国人を受け入れる」ために、在留資格「特定技能」の運用を始めました。また、法務省の入国管理局が改組され、同省外局として出入国在留管理庁(入管庁)が設置されました。
2018年12月末現在、約273万人の外国人が日本に暮らしています。在留外国人の数は、戦後ほぼ一貫して増えましたが、リーマンショックと東日本大震災の影響で、一時期、減少しました。しかし、2013年以降、再び大きく増加して、現在に至っています。現在、日本の総人口の約2%を外国人が占めています。
「特定技能」は、「特定技能1号」と「特定技能2号」に分かれます。前者は「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能」を持った外国人に認められ、後者は「特定産業分野に属する熟練した技能」を持った外国人に認められます。前者の在留期間は最大5年で、家族の帯同は認められませんが、後者は在留期間の更新が可能で、家族の帯同が可能です。但し、後者の運用は2021年度まで見送られました。
「特定技能」によって、今後5年間に14分野あわせて最大34万5150人の外国人の受入れが予定されています。受入れ分野別の内訳を見ると、介護(60000人)、外食(53000人)、建設(40000人)、ビルクリーニング(37000人)、農業(36500人)、飲食料品製造(34000人)、宿泊(22000人)等となっています。
「特定技能1号」を取得するためには、技能試験と日本語試験に合格する必要があります。但し、外国人技能実習制度による技能実習2号を修了した外国人は試験が免除となります。これまで、介護、外食、宿泊に関する技能試験が実施されています。
今回の新制度の導入により、日本で暮らす外国人住民の数はさらに増えていくでしょう。政府は、現在の人手不足への対応策であることを強調していますが、今世紀を通じて、日本の総人口そして生産年齢人口が大きく減少していくことを考えると、人工知能(AI)やロボットが普及したとしても、日本に暮らす外国人の数がさらに増加していくことが予想され、国籍や民族などが異なる人々が共に生きる多文化共生社会づくりは喫緊の課題と言えます。
政府は、2018年12月の入管法改定にあわせて、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を取りまとめました。同対応策の目玉は「多文化共生総合相談ワンストップセンター」の設置と言えるでしょう。都道府県、指定都市及び外国人が集住する市町村約100か所における情報提供及び相談を行う一元的な窓口の設置を支援することを謳いました。
今回の総合的対応策には、受け入れ社会への働きかけやヘイトスピーチ対策がほとんど含まれておらず、全体的に外国人支援に偏り、多文化共生の意識づくりや共生社会づくりの視点が弱いと言えます。また、筆者は、2000年代初めから、多文化共生社会の形成を推進する法律の制定と組織の設置を唱えてきましたが、今回の総合的対応策には、そうした体制整備への言及は一切ありません。
先進国の大半では、社会統合を進める法律を制定し、担当組織を定めています。ドイツでは、2005年1月に移住法が施行され、内務省に設置された連邦移住難民庁がドイツ語やドイツの法秩序・文化・歴史を学ぶ統合コースを始めました。韓国も2007年に在韓外国人処遇基本法を制定し、法務部(法務省)が韓国語や韓国の経済、社会、法律などを習得できるプログラムを実施しています。台湾でも、1999年に入出国及移民法が制定され、2007年に内政部(内政省)に設置された「入出国及移民署(2015年に移民署に改称)」が「多元文化の尊重」や「移民の人権保障」というビジョンを掲げ、社会統合政策を推進しています。
日本でも、先月、「日本語教育の推進に関する法律」が制定されました。この法律は、日本語教育を推進することで、「多様な文化を尊重した活力ある共生社会」の実現をめざし、諸外国との交流を促進することを目的としています。これまで、国内の外国人のための日本語教育の多くは市民ボランティアが担ってきており、日本語教育の推進に関する国や自治体、企業の責務を定めた画期的な法律と言えます。但し、諸外国のような外国人のための日本語プログラムを政府がつくることはすぐには期待できないでしょう。
先進各国が外国人労働者の受け入れを競って進める中、諸外国が積み重ねてきた取り組みを参考に、日本も早急に多文化共生の体制整備を進めていく必要があります。
*2019年6月27日付のThe Japan Timesに掲載された拙稿 "Is Japan becoming a country of immigration?" を日本語に翻訳し、一部手直ししたものです。