コラム

第34回 外務省の国際フォーラム

山脇啓造

 外務省と国際移住機関(IOM)の共催で、外国人の受け入れと社会統合のための国際フォーラム「外国人住民への情報発信:コロナ禍で見えた現状と課題」が、2021年2月にオンラインで開催されました。

 外務省がIOMと組んで外国人受入れのテーマで国際会議を初めて開いたのは2004年度のことでした。7月に「国境を越えた人の移動-経済連携協定と外国人労働者の受け入れ-」、そして2月に「外国人問題にどう対処すべきか-諸外国の抱える問題とその取り組みの経験を踏まえて-」をテーマに掲げ、国際シンポジウムが2回開催されました。2005年度からは毎年1回、2月または3月に開催されるようになりました。

 2007年度から、外務省とIOMに加え、自治体も共催団体となり、静岡県や愛知県、神奈川県との共催となった後、2010年度からは新宿区など都内の自治体や明治大学など都内の大学と共催し、都内での開催がこれまで続いています。ただし、2018年度は、2018年12月の入管法改正の影響で開催が見送られ、2019年度は10月に開催されました。今まで、300人ぐらいの参加が多かったのですが、今回は初のオンライン開催で、延べ参加者数は約1400人、実際の参加者数も900人近くと、今までにない大規模なフォーラムとなりました。

 会議は三部構成で、第一部では、國場幸之助外務大臣政務官の開会挨拶、アントニオ・ヴィトリーノ IOM事務局長の基調講演とシャロン・ハービー・オークランド工科大学准教授の講演(録画ビデオの放映)がありました。ハービー教授の講演は、「危機における文化的・言語的に多様なコミュニティとのコミュニケーション」がテーマで、コロナ禍での多言語での情報発信に加え、「やさしい英語」(plain English)の活用についての興味深い報告がありました。

 第二部では、3つの事例発表があり、インドシナ難民として来日した山本雄次DS in Japan代表取締役が「コロナ禍と外国人住民」について、武田裕子順天堂大学教授が「医療現場とやさしい日本語」について、井上泰弘ヒロ・フードサービス代表取締役が「社内コミュニケーションとやさしい日本語」について報告しました。山本氏からは、ベトナム出身の技能実習生や留学生の生活困窮の現状について、武田氏と井上氏からは、医療現場や医学教育、飲食業界におけるやさしい日本語の普及についての報告がありました。

 第三部では、「外国人住民への情報発信とやさしい日本語」をテーマにパネル討論を行いました。パネリストは、大阪市生野区の山口照美区長、東京都千代田区にある国際活動市民中心の新居みどりコーディネーター、京都市にある外国人女性の会パルヨンのハッカライネン・ニーナ代表理事(フィンランド出身)、浜松市にあるソミック石川の石川雅洋代表取締役社長の4名で、モデレーターは筆者が務めました。筆者は四谷の外国人在留支援センターの大会議室に設置された運営本部からインターネットに接続しましたが、パネリストの皆さんはそれぞれの地元からの接続となりました。

 パネリスト4人から行政、市民活動、当事者団体、企業と多様な立場で、やさしい日本語の意義や実際の活用例について報告があり、その後、やさしい日本語の限界や多言語化や通訳・翻訳の活用とのバランスについての意見交換がもたれました。また、後半には、フロアとの質疑応答もありました。筆者はズームのミーティング形式(参加者全員がビデオとマイクを使用する会議)は大学の授業で慣れていましたが、ウェビナー形式(登壇者のみビデオとマイクを使用する会議)は初めてで、Q&Aの使い方について事前に説明を受けていなかったため、900人近い参加者からの質問を受け付けながら、パネル討論を進行するのに戸惑いました。ただ、フォーラム後に、パネリストの皆さんから楽しかったとの感想があり、参加者アンケートでも、パネリスト間のやり取りが面白かったとの感想をいただき、モデレーターとして嬉しい気持ちになりました。

 外務省が実施する国際フォーラムは、2018年12月に策定された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の中で、「外国人との共生社会の実現に向けた意見聴取・啓発活動等」の具体的施策の一つに掲げられました。同対応策の令和2年度改訂版(2020年7月)では、施策番号4に位置付けられ、「海外の有識者による海外の先進事例の紹介を行うとともに、地方公共団体等の国内関係者によるパネルディスカッションを通して、日本人の意識啓発を行い、外国人の受入れ施策を講ずるための知見を得る機会とする」とあります。外務省がこうした会議を開催するのは、諸外国では珍しいことのようですが、このフォーラムが日本社会における多文化共生の意識づくりに貢献し、入管庁など他の府省庁にもよい影響を及ぼすことを期待しています。

国際フォーラム当日の映像
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page24_001333.html
外務省「在日外国人の社会統合」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page25_001886.html
国際移住機関「社会統合WS・フォーラム」
https://japan.iom.int/japan/ja/publications/jointworkshop
山脇啓造「外務省」全国市町村国際文化研修所メールマガジン[2008年4月23日](2007年度の会議の報告)
https://www.jiam.jp/melmaga/kyosei/newcontents13.html#000512
山脇啓造「外務省『外国人の受け入れと社会統合のための国際ワークショップ』」自治体国際化協会コラム[2019年12月19日](2016年度の会議の報告)
https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/114388.php

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