コラム

第35回 インターカルチュラル・シティと日本

山脇啓造

 2000年代以降、移住者の受入れをテーマとする都市の国際的なネットワークづくりが活発になりました。その中の代表的な存在が「インターカルチュラル・シティ・プログラム(ICC)」です。移住者やマイノリティがもたらす多様性を活かしたまちづくりを進める都市を支援するプログラムで、2008年に欧州の11都市が参加する試験的な取り組みとして、欧州評議会が欧州委員会の支援を得て始めました。その後、加盟都市が増え続け、現在、欧州内外の150近い都市が参加するネットワークに成長しています。

 欧州評議会は、人権、民主主義、法の支配の分野で国際社会の基準策定を主導する汎欧州の国際機関として、1949年にフランスのストラスブールに設立されました。汎欧州の組織ですが、日本は1996年にオブザーバー国になりました。他に、教皇庁、アメリカ、カナダ、メキシコがオブザーバー参加しています。

 ICCは欧州発のプログラムですが、日本と深い関わりがあります。国際交流基金のイニシアティブで、プログラム開始翌年の2009年から、日本の自治体関係者と欧州のICC関係者の交流が始まりました。2012年1月には、東京で日本と韓国と欧州の自治体首長が集う日韓欧多文化共生都市サミットが開催され、日本からは、浜松市、新宿区、大田区の3首長が参加しました。さらに、2012年10月に浜松市で、2013年10月には韓国・安山市で第2、3回のサミットも開催されました。その後も毎年、日本と欧州の交流は進み、2017年に浜松市がアジアで初めてICCに正式加盟しました。そして、現在、神戸市が加盟に向けた検討を進めています。ちなみに、韓国でも、2020年に安山市とソウル市九老区が加盟しました。

 2021年は日本にとってオブザーバー参加から25周年となります。そこで、外務省の25周年記念事業の一環として、インターカルチュラル・シティの入門書の欧州評議会からの刊行が企画されました。筆者は欧州評議会からの依頼を受け、スペインのインターカルチュラル・シティを研究する上野貴彦氏と共に『自治体職員のためのインターカルチュラル・シティ入門』を執筆しました。ほぼ同内容の日本語版と英語版があり、どちらも2021年3月に刊行されました。

 このブックレットは、「インターカルチュラル・シティの基礎知識」(第1章)、「インターカルチュラル・シティのつくり方」(第2章)「多様で包摂的なまちづくりを担うには」(第3章)の三部構成となっています。第1章は、欧州評議会のインターカルチュラル・シティの刊行物をもとに、プログラムの理念や政策、概要について執筆しました。第2章では、インターカルチュラル・シティをめざすために、リーダーシップとコミットメント、そして多様性尊重の意識醸成が必要なことを示すとともに、日本のインターカルチュラル・シティとして浜松市の取り組みを振り返り、神戸市の取り組みにも言及する内容となっています。第3章では、自治体職員に求められるインターカルチュラル能力(知識・技能・態度)について論じています。

 筆者にとって、2010年に国際交流基金の派遣プログラムに参加し、ICC加盟都市であるスイス・ヌーシャテル州とイタリア・レッジオエミリア市を視察したのが、ICCとの最初の出会いでした。2012年度の在外研究期間にイギリスとベルギーに滞在し、欧州の各都市で開催されたセミナーや視察プログラムに参加して以来、日本と欧州やオーストラリア、韓国の自治体の政策交流に関わってきました。

 日本では、新たな外国人労働者の受入れを目指した2018年12月の入管法改定を契機に、政府の共生社会づくりが本格化し、多文化共生への関心も高まりました。コロナ禍によって、現在、そうした関心は下がっているかもしれませんが、今後数十年に及ぶであろう人口減少と少子高齢化の進展の中で持続可能な地域社会を築いていくには、どの自治体にとっても、多文化共生のまちづくりは避けて通れない課題といえます。本ブックレットが日本の多文化共生の取り組みを国際的な文脈の中に位置づけ、共生社会づくりの前進に寄与することを願っています。

 なお、2021年3月に、本ブックレット刊行を記念して、欧州評議会と外務省の共催及び国際交流基金と自治体国際化協会の後援によって、2つのオンライン・セミナーが開催されました。第1回セミナーは「インターカルチュラル・シティと日本―浜松市と神戸市の取り組みから考える」をテーマに日本語で開催され、約120名の参加がありました。第2回セミナーは、Intercultural Cities in the Asia-Pacific: Local Experiences, Regional Cooperationをテーマに英語で行われ、約100名の参加がありました。両セミナーの概要は、外務省が開設した欧州評議会オブザーバー加盟25周年記念特設ウェブサイトに掲載されています。

『自治体職員のためのインターカルチュラル・シティ入門』
https://rm.coe.int/introduction-to-intercultural-cities-japan-jpn/1680a1a65a
An Introduction to the Intercultural City for Local Governments in Japan
https://rm.coe.int/an-introduction-to-the-intercultural-city-for-local-gvts-in-japan/1680a1cd3f
欧州評議会オブザーバー加盟25周年記念特設ウェブサイト
https://www.strasbourg.fr.emb-japan.go.jp/itpr_ja/japan_coe_top_jp.html
山脇啓造「インターカルチュラル・シティ―欧州都市の新潮流」『自治体国際化フォーラム』2012年1月号
https://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_267/14_culture.pdf
山脇啓造「多文化共生都市サミット―新たなネットワークの構築に向けて」『自治体国際化フォーラム』2012年4月号
https://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_270/13culture.pdf
浜松市国際課「国内外の多文化共生都市の連携促進に向けて」及び山脇啓造「自治体がリードする社会統合―多文化共生都市の時代へ」『自治体国際化フォーラム』2012年9月
https://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_275/14_culture.pdf
Intercultural Cities Programme(英語)
https://www.coe.int/en/web/interculturalcities

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