山脇 啓造
出入国在留管理庁が2023年4月に「総合的な支援をコーディネートする人材の役割等について(検討結果報告書)」を公表しました。これは、同庁が昨年9月に設置した「総合的な支援をコーディネートする人材の役割等に関する検討会」(議長:入管庁政策課長)が5回の審議を経て、外国人に対する総合的な支援をコーディネートする人材の役割、能力、育成等について検討した結果を取りまとめたものです。
2018年12月の入管法改定と同時に策定された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に基づき、入管庁は、都道府県及び市町村が在留外国人に対し在留手続、雇用、医療、福祉、出産・子育て・子供の教育等の生活についての情報提供及び相談を多言語で行うワンストップ型の相談窓口(一元的相談窓口)の設置・拡充又は運営に関する外国人受入環境整備交付金による財政的支援を始めました。2023年4月現在、全国の251団体が同交付金を活用して一元的相談窓口を運営しています。
また、国自らも、2020年7月、東京都新宿区に外国人在留支援センター(FRESC)を設置し、入管庁等4省庁8機関がワンフロアに入居し、連携しながら、外国人の様々な相談対応を行うほか、自治体設置の一元的相談窓口からの問合せへの対応、自治体職員への研修、情報提供等の支援を行っています。
こうして、2019年度以降、外国人向けの相談体制等が整備されつつあるにもかかわらず、入管庁が実施した「在留外国人に対する基礎調査(2020年度、2021年度)」によると、生活上の困りごとを抱えた外国人が相談窓口や支援情報に辿り着くことができない、相談窓口に辿り着いても適切な支援を受けることができないという問題が発生していることが明らかになりました。そこで、そうした問題を解決するため、入管庁は「外国人支援コーディネーター」の育成・認証制度を創設することにしました。
以下、報告書の内容をできるだけわかりやすく紹介し、その後、自治体国際化協会が認定する「多文化共生マネージャー」研修(同協会・全国市町村国際文化研修所共催)の初期(2000年代後半)に講師を務め、2017年度から東京都の「多文化共生コーディネーター」研修を監修している筆者の観点からコメントしたいと思います。
報告書の概要
外国人支援コーディネーターは、「日本の法令や制度等及び外国人が受けることができる様々な支援サービスに関する専門的知識並びに相談支援に関する技術をもって、次の①及び②に掲げる業務を行うことができる人材」と定義されています。①は相談者の相談に応じ、解決に導くこと、②困りごとの発生を未然に防ぎ、困りごとが発生した場合の相談先を周知することを指します。
外国人支援コーディネーターの役割は、果たすべき役割と期待される役割に分かれ、前者は外国人への個別支援を行うこと、後者は外国人の受入れ環境の整備へ貢献していくことです。前者はさらに、相談対応支援と予防的支援に分かれます。相談対応支援とは、相談対応部署等において、外国人相談者と連携先(行政機関、専門機関、支援団体、専門家等、様々な支援サービスの提供者)を最短でつなぎ、解決まで導くことを指します。一方、予防的支援とは、生活オリエンテーション等を通して、困りごとの発生を未然に防ぎ、困りごとが発生した場合の相談先を周知することを指します。
外国人支援コーディネーターの配置先としては、FRESC、入管庁所管の外国人在留総合インフォメーションセンター(各地方入管局)並びに自治体の一元的相談窓口が想定されています。さらに、特定技能、技能実習、留学の在留資格を有する外国人の受入れ機関等に配置することも検討するといいます。
次に外国人支援コーディネーターの「能力及びマインド」として、4つの能力(外国人の在留状況を正確に把握する能力、異なる文化や価値観を理解する能力、外国人の複雑・複合的な相談内容に対して適切な解決まで導く能力、外国人を適切な支援へ円滑につなげる能力)とマインド(外国人相談者に寄り添い、相談者の尊厳と人権を尊重する姿勢・心構え、外国人相談者の話をよく聞き、同じ目線に立って考え共感する力、忍耐力)を挙げています。
さらに、外国人支援コーディネーターの育成のために、2023年度に研修のカリキュラム等を検討し、2024年度から研修を開始し、修了者を「外国人支援コーディネーター」として認証するとしています。対象者は国や自治体またはその委託を受けた機関が運営する外国人向けの相談窓口において、常勤で一年以上、相談対応業務に従事している者となります。研修は、オンライン研修(基本的知識及び技術に関する講義等、約60時間)、自身の職場における実践(3か月)、集合研修(2日間、1グループ15人以下、最後に修了認定テスト)から構成されます。
外国人支援コーディネーターの配置先である上述の団体に1名ずつ配置するため、2026年度までに300名程度を認証し、さらに各団体に2名の配置をめざして早期に600名程度を認証することを目標に掲げています。
なお、認証は3年間有効で、有効期間の最終年度に認証更新研修を修了することで、認証をさらに3年間更新することが可能になります。また、外国人支援コーディネーターとして3年以上の実務経験を積んだ者の中から「エキスパート」を育成して認証する指導者用研修を実施することも検討します。エキスパートとして更に実践を積み重ねた者に対して、高度な専門人材として国家資格を付与することを想定しています。
報告書に対するコメント
国が多文化共生社会の形成に向けて人材育成に取り組むのは画期的なことであり、予算措置も伴えば、多くの自治体から歓迎されると思います。2020年7月に策定された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和2年度改訂)」において、「在留外国人に対する総合的な支援をコーディネートする人材の育成を促進する施策を検討する。〔法務省〕《施策番号 59》」と示されてから3年近く経ちますが、その検討結果が具体的な制度の提案として公表されたことは高く評価すべきと思います。そのうえで、以下、筆者が疑問に感じた点を述べます。
第一に、今回の「外国人支援コーディネーター」は、外国人相談を担当する「相談員」との区別が不明確であり、「コーディネーター」の役割や能力が曖昧になっている点です。「コーディネーター」の役割や能力として示された内容の多くは相談員の役割や能力とも重なり、コーディネーター本来の役割や能力の提示が不十分ではないでしょうか。研修の対象者が相談員であることから、外国人支援コーディネーターはレベルアップした相談員という位置づけのようにも見えます。報告書にも引用されている既存の人材育成の取り組みである「多文化共生マネージャー(自治体国際化協会)」、「多文化社会コーディネーター(多文化社会専門職機構)」、「多文化共生コーディネーター(東京都つながり創生財団)」は、いずれも外国人相談あるいは外国人支援に関わる専門人材というよりは、多文化共生社会の形成に向けて様々な課題を解決するために、企画立案する専門人材をめざしています。(ちなみに、総務省では、「災害時外国人支援情報コーディネーター」の養成、厚労省では「定住外国人職業訓練コーディネーター」の配置に取り組んでいます。)
見方を変えると、今回の外国人支援コーディネーターの育成は、入管庁が財政支援する全国の自治体の一元的相談窓口のレベルアップをめざした取り組みと言えそうです。そうだとすると、まず、各自治体の相談窓口の現状や課題を把握することが先決ではないでしょうか。その際には、相談窓口担当の自治体や国際交流協会の職員並びに外国人住民と直接接する相談員、通訳者といったスタッフに関わる課題の整理が不可欠でしょう。また、都道府県設置の相談窓口と市町村設置の相談窓口の役割分担の整理も必要です。その上で、前者配置のコーディネーターと後者配置のコーディネーターの役割もより明確になるでしょう。さらに、相談員とコーディネーターのキャリアパスが接続しているのであれば、今回、コーディネーターの役割や能力、育成を検討するのと同時に、相談員の役割や能力、育成(特に研修のあり方)も検討すべきだったのではないでしょうか。
第二に、コーディネーターの能力に関して、上述のように四つに分類し、さらに一定の「マインド」が必要としています。そして、四つの能力ごとに、一定の「知識」や「技術」が必要であると説明しています。しかしながら、本検討会に文化庁が提出した資料に「地域日本語教育コーディネーター」の資質・能力が示されているように、コーディネーターの能力を論じる上では、「知識」、「技能」、「態度」といった三要素に整理するのが一般的といえます。欧州評議会が進めるインターカルチュラル・シティ・プログラムにおいても、自治体職員のインターカルチュラル能力(intercultural competencies)として、同様に整理しています。今回の報告書は検討会独自の概念整理を行っているため、わかりにくい内容になっているといえます。
第三に、外国人支援コーディネーターという名称に関わる問題です。上述のように理解すると、今回の人材は「外国人相談コーディネーター」と呼んだほうがふさわしいかもしれません。一方、外国人支援コーディネーターに期待される役割として、国や自治体が制度改善に取り組んでいる時に自身が把握した現状や課題を提示するなどして、「外国人の受入れ環境の整備へ貢献していくこと」とあり、共生社会づくりの担い手になることも想定されていると言えます。
2006年3月に筆者が座長を務めた総務省の多文化共生の推進に関する研究会が報告書を作成した際、会議の中で外国人支援=多文化共生ではないことが議論されました。外国人支援だけでは十分ではない、地域社会に対する働きかけによって、受入れ社会の側の意識が変わらなければ、多文化共生社会はつくれないという問題意識が委員の間で共有されました。そして、総務省はコミュニケーション支援、生活支援に加え、三番目の柱として多文化共生の地域づくりを位置づけた「多文化共生推進プラン」を策定しました。
相談員の専門性を高めた「外国人支援コーディネーター」を国が認証することは、相談員のキャリアパスを示し、パートタイムの非正規職員が多くを占める相談員の待遇改善につながる可能性があり、特に外国ルーツの若者にとっては大きな意義があるといえます。一方、外国人支援コーディネーターをそのように位置付けるのであれば、少なくとも都道府県や政令都市には、より総合的な観点から多文化共生の地域づくりをすすめるために、外国人相談、地域日本語教育、災害時対応等といった縦割りを超えたコーディネーター的存在が必要かもしれません。
出入国在留管理庁:総合的な支援をコーディネートする人材の役割等に関する検討会 https://www.moj.go.jp/isa/policies/coexistence/04_00038.html
自治体国際化協会:多文化共生マネージャー(2006年度~)
https://www.clair.or.jp/j/multiculture/jiam/tabumane.html
多文化社会専門職機構:多文化社会コーディネーター(2016年度~)、相談通訳者(2017年度~)
http://tassk.org/certificate
東京都つながり創生財団:多文化共生コーディネーター(2017年度~)
https://www.tokyo-tsunagari.or.jp/multicultural/#section05