杉田昌平
第1 はじめに
日本に在留する外国人は2023年6月末時点で約322万人となっています。2022年12月末の人数が約307万人でしたので、半年で15万人が増加したことになります。その中でも働く外国人の増加が目立ちます。日本では、外国人を雇用した事業主は、雇用状況の届出を行うことになっています(労働施策総合推進法28条1項)。
この雇用状況の届出の件数を見ると、2022年10月末に182万人だったのが、2023年の10月末時点において約204万人となっており、1年で22万人増加しています。 22万人という数字は兵庫県宝塚市(226,432人)、群馬県太田市(223,014人)、東京都荒川区(217,475人)等と同規模の人数です(「政府統計の総合窓口より」)。
また、22万人ずつ増加した場合、3年で66万人が増加することになります。66万人という人数は、島根県の人口に相当する人数です。
このように、現在、日本の働く外国人の増加の水準は「1年で市1つ、3年で県1つ」の人口規模で増加しているといえます。
[図1:在留外国人数:雇用状況届出数]
では、この増加はどこまで続くのでしょうか。この点で、2022年度にJICA緒方貞子平和開発研究所が行った調査研究が参考になると思います。
JICA緒方貞子平和開発研究所では「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究」と題して、GDPも目標成長率を1.24として、設備投資をできるだけ行うことを前提に、設備投資を行ってもなお不足する労働力について、外国人を受け入れるという前提でシミュレーションしたところ、2030年に419万人、2040年に674万人の外国人に日本に来てもらわなければ、目標GDPの経済成長は達成できないという結果となりました。
仮に年22万人の増加が続くと仮定しますと、2030年には現在から154万人増加した358万人、2040年にはさらに220万人増加し578万人となるため、実際の増加速度の方が若干遅いものの、上記のシミュレーションに近い数字となって来ているといえます。
第2 どういった国から来てくれているか
では、日本に来る外国人、特に働く外国人の出身国・地域はどういったところなのでしょうか。
雇用状況の届出の対象となっている外国人204万人のうち、人数を上から見ると、①ベトナム(518,364人)、②中国(397,918人)、③フィリピン(226,846人)、④ネパール(145,587人)、⑤ブラジル(137,132人)となります。
[図2:国別外国人労働者数・割合]
(1)国際労働市場の中の日本
日本という国だけを見てもこれだけ多くの外国人が働いてくれていることを見ると、世界ではこれよりも遙かに多くの移住労働者が存在することが推測できます。
[図3:送出国と目的地国]
上記の図は、「Labor Migration in Asia: COVID-19 Impacts, Challenges, and Policy Responses」を参考に、2019年にそれぞれの国から、どの国にどれくらいの人が移動しているかをまとめたものです。例えばフィリピンでは1年に41万人の人がサウジアラビアへ移動していることがわかります。
上記の移動を見ると、近隣国(ミャンマー→タイ、カンボジア→タイ等)へ移動する例や、中東(フィリピン→サウジアラビア、ネパール→カタール等)へ移動する例が多いことがわかります。
このような移動の傾向を見ると、単に賃金の高さだけで移動するか否かが決まるのではなく、移動場所までの距離等、移動へのコストが移住労働者の選択に影響を与えている可能性を感じます。
その中で、日本は、比較的所得の高い国から選ばれている傾向があることがわかります(インドネシア、ベトナム、タイ)。
これは、「移住と開発」が関係しているものと思われます。すなわち、Hein de Haasの研究(2021)によれば、国際労働移動は、単に賃金格差があるだけでは増加せず、送出国の経済発展が移住能力を高めるため、経済発展が進むにつれ、徐々に海外へ働きに行く人が増える傾向にあるとされます。
これは、日本に働きに来るためには語学や職業訓練をせねばならず、そういった語学の勉強や職業訓練を提供してくれる教育機関ができる程度に国が発展しなければ、海外へ送り出すことについての教育が提供できないことからもご想像頂けるのではないかと思います。
その中でも日本は、移動に費用と時間がかかりながら、確実に稼ぐことが出来る国として位置づけられているように思われます。
(2)日本は選ばれているのか
では、この国際労働市場で日本は選ばれている国といえるのでしょうか。特に、最近では日本では賃金上昇が十分ではないことや、「円」の為替市場における弱さから、日本で移住労働をすることの経済合理性が下がってきているとも感じられます。
実際にベトナムでは、新型コロナウイルス感染症前の年である2019年の技能実習1号の入国者数と、その後の推移を見てみると、減少傾向にあることがわかります。
[図4:技能実習1号の入国者数(ベトナム)]
出典:出入国管理統計より筆者作成
青が2019年、オレンジが2022年、グレーが2023年の技能実習1号の入国者数を示していますが、ベトナムでは、青の2019年が最多である月が多いことがお分かり頂けると思います。なお、2022年3月から6月の入国者数が多いのは、2022年3月から新型コロナウイルス感染症のために設けられていた水際措置の緩和があったためです1。
このようなベトナムの技能実習1号の入国者数の推移を見ると、日本は国際労働市場において選ばれなくなってきているようにも感じられます。
他方で、同じ時期のインドネシアからの技能実習1号の入国者数を整理すると次のとおりとなります。
[図5:技能実習1号の入国者数(インドネシア)]
出典:出入国管理統計より筆者作成
[1]令和4年2月24日「水際対策強化に係る新たな措置(27)(本年3月以降の水際措置の見直し)
著者プロフィール
弁護士(東京弁護士会)、入管届出済弁護士、社会保険労務士。慶應義塾大学大学院法務研究科特任講師、名古屋大学大学院法学研究科日本法研究教育センター(ベトナム)特任講師、ハノイ法科大学客員研究員、アンダーソン・毛利・友常法律事務所勤務等を経て、現在、弁護士法人Global HR Strategy 代表社員弁護士、社会保険労務士法人外国人雇用総合研究所 代表社員、独立行政法人国際協力機構国際協力専門員(外国人雇用/労働関係法令及び出入国管理関係法令)、慶應義塾大学大学院法務研究科・グローバル法研究所研究員。