コラム

外国人雇用と入管法

外国人雇用と入管法

弁護士 山脇康嗣

 「多文化共創経営」を「外国人雇用と入管法」という切り口で考える場合は、後記第1の在留資格制度についての理解(実体についての理解)、後記第2の手続についての理解、後記第3の法律についての理解が重要となります。

第1 在留資格制度についての理解(実体についての理解)
1 基本的発想
 入管法の根幹である在留資格制度は、「国民国家の主権行使として、日本国(日本社会)にとって望ましい外国人を受け入れ、望ましくない外国人は原則として出て行って頂くこと」を実現するための制度です。

2 在留資格該当性(望ましい外国人の活動に係る「法律」による類型化)

●在留資格一覧表

https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf

(1)活動類型資格と地位等類型資格(居住資格)
 入管法が規定する在留資格は、日本国(日本社会)にとって望ましい外国人の活動を類型化したものであり、活動類型資格と地位等類型資格(居住資格)に分類できます。外国人が行う活動自体に着目して類型化したものが活動類型資格であり、入管法別表第1に規定されています。それに対し、活動の前提となる地位(身分関係)に着目して類型化したものが地位等類型資格(居住資格)であり、入管法別表第2に規定されています。

 上記の在留資格一覧表では、「身分・地位に基づく在留資格(活動制限なし)」(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)が地位等類型資格であり、それ以外は全て活動類型資格です。

(2)就労資格の分類(専門・技術的資格と非熟練現業的資格)
 上記(1)の活動類型資格のうち就労活動を行うことが認められる在留資格を講学上就労資格といい、認められる就労活動の内容(専門・技術性の有無)に応じて、専門・技術的資格と非熟練現業的資格に分類することができます。

 これまでの日本の外国人労働者受入政策は、専門・技術的労働者は積極的に受け入れるが、それ以外のいわゆる単純労働者(非熟練の現業的労働者)は十分慎重に対応するというものでした。そのため、基本的には、非熟練現業的資格は「技能実習」と「特定技能1号」に限られ、それ以外は専門・技術的資格です。


(3)在留資格該当性が持つ機能(許可要件としての機能、不法就労か否かを画する機能)
 在留資格該当性とは、入管法別表が在留資格ごとに規定する活動に該当することをいい、①許可要件としての機能と、②不法就労か否かを画する機能の2つの重要な機能があります。

①の許可要件としての機能については、在留資格該当性の存在は、在留資格認定証明書交付、上陸許可、在留期間更新許可、在留資格変更許可等の外国人の在留諸申請に係る許可要件となります。

②の不法就労か否かを画する機能については、入管法は、在留資格該当性のない就労活動を違法な資格外活動(不法就労)として規定し、刑事罰をもって禁じています。在留資格該当性のある就労活動(例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって在留する外国人が行う専門・技術的就労)は適法であるのに対し、在留資格該当性のない就労活動(例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって在留する外国人が行う非熟練の現業的就労)は不法就労として罰せられるということです。

 外国人労務管理においては、外国人労働者の受入時及び受入後を通じて常に在留資格該当性を維持することが非常に重要となります。

(4)在留資格該当性の全体的判断(一時的現業業務、実務研修)
 上記(3)のとおり、在留資格該当性は、外国人労務管理において非常に重要な概念ですが、在留資格該当性の有無を一刀両断に判断することは難しいことがあります。複雑な経済社会において、人の行動は単純・単一でなく多面的であるとともに、時間の経過とともに徐々に変化していくことがあるからです。このことを踏まえて、在留資格該当性の有無は、当該在留資格をもって当該企業において活動する在留期間の全体を捉えて判断することとされています。このような在留資格該当性の全体的判断が求められる局面として、いわゆる「一時的現業業務」又は「実務研修」という、それ自体では在留資格該当性が肯定されない業務に従事する場合があります。

 まず一時的現業業務について、入管庁のガイドラインは、業務に従事する中で、一時的に、それ自体では在留資格該当性(一定程度以上の専門性)がない現業的業務(単純就労)を行わざるを得ない場面(例えば、外国人客に係る通訳・翻訳を主として行うホテルのフロント業務に従事している最中に団体客のチェックインがあり、急遽、宿泊客の荷物を部屋まで運搬することになった場合)について、そのことをもって直ちに入管法上違法と評価するものではなく、結果的にこうした業務が在留における主たる活動になっている場合に、在留資格該当性を否定するとしています。これは、外国人の行う活動を、「縦」の関係で断片的(切断的)にみた場合に、一時的に現業的業務(単純就労)が含まれていたとしても(例えば、1日8時間の労働時間のうち、1時間程度、現業業務に従事せざるを得ない日が存在するとしても)、それが当該時点における従たる業務にとどまっているのであれば(1日の労働時間の大半は、それ自体で一定程度以上の専門性が肯定される業務に従事しているのであれば)、在留資格該当性があると判断するということです(縦の関係での全体的判断)。

 次に実務研修について、行おうとする活動に、それ自体では「技術・人文知識・国際業務」に該当しない業務が含まれる場合であっても、それが入社当初に行われる研修の一環であって、今後「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務を行う上で必ず必要となるものであり、日本人についても入社当初は同様の研修に従事するといった場合には、在留資格該当性の有無(一定程度以上の専門性の有無)を全体的に判断し、「技術・人文知識・国際業務」に該当するものと取り扱われています(横の関係での全体的判断)。これは、ある外国人の活動について在留資格該当性があるか否かについて、外国人の行う活動を、いわば「横」の関係で全体的(連続的)に捉えて在留資格該当性を判断するものです。換言すれば、外国人の活動を、ある一時点あるいはある短期間という「縦」の関係で断片的(切断的)にみた場合には、当該時点での主たる活動が現業的業務(単純就労)であるとしても(例えば、1日8時間の労働時間のうち、その大半である6時間が現業業務であっても)、そのような状態が、「横」の関係でみて、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって当該企業において就労することが見込まれる期間(例えば3年)のうちの当初の短期間(例えば1年)に限られる場合には、在留資格該当性があると判断するということです。

3 上陸許可基準適合性(社会へ与える影響に鑑みた「省令」による質と量の政策的調整)
 上記2のとおり、入管法という「法律」によって、日本国(日本社会)にとって望ましい外国人の活動を在留資格ごとに類型化しています。それに加えて、一部の活動類型資格については、外国人の受入れが社会へ与える影響に鑑み、上陸基準省令という「省令」に基づき上陸許可基準を規定することによって、質と量の政策的調整(学歴、実務経験、報酬額、業務内容等による絞り込み)を行っています。上陸許可基準適合性は、在留諸申請に係る許可要件として機能します。

第2 手続についての理解
1 「点の管理」から「線の管理」へ、さらに「面の管理」へ
 平成21年入管法改正により、入管法上、在留カードの交付、在留カード記載事項の変更に係る届出、所属機関に関する届出、配偶者関係に関する届出等の新たな在留管理制度が導入されました。その趣旨は、日本に在留する外国人に対し、「点」の管理(主として入国時、在留期間更新時、出国時に限定した断片的な管理)ではなく「線」の管理(断片的な管理ではなく継続的な管理)を図るというものでした。さらに、技能実習制度や特定技能制度においては、種々の問題が生じやすいことを踏まえ、制度関係者に対して、非常に多岐にわたる事項に関して定期及び随時の届出義務を課しており、「面」の管理といえる様相となっています。

2 手続の行為主体による類型(外国人、受入企業)
 外国人雇用に関わる入管法上の手続は、外国人本人が主体となるものと受入企業等が主体となるものに分類することはできます。もっとも、結局は、どの手続も実際上は両者が「協力」して行うことになります。

3 手続の性質による類型(申請、届出)
 外国人雇用に関わる入管法上の手続は、基本的に、外国人の本来的自由に属しない在留等の権利を特別に付与する許可に係る諾否の応答を求める申請と、形式上の要件に適合していればそれが行政庁に到達したときに義務が履行されたことになる届出に分類することができます。

4 正規在留者に係る主な手続一覧
 外国人雇用に関わる正規在留者に係る主な手続をまとめると次の図のようになります。なお、〔〕内の表記は、当該手続を行うべき主体を現します。

入国前の手続

在留資格認定証明書交付申請〔本人、代理人たる企業〕→査証発給申請〔本人〕→上陸許可申請〔本人〕→上陸許可時に在留資格付与

入国後の手続

入管法に基づく手続

在留目的の変更なし

滞在期間延長

在留期間更新許可申請〔本人〕

アルバイト(副業)

資格外活動許可申請(包括、個別)〔本人〕

転籍・移籍

(所属機関の変更)

所属機関に関する届出(契約終了・離脱、新契約締結・移籍)〔本人〕

※地位等類型資格及び「特定活動」等の一部の活動類型資格は除く

(就労資格証明書交付申請〔本人〕)

1年を超える再入国

通常再入国許可申請〔本人〕

在留目的の変更あり

在留資格変更許可申請〔本人〕

※所属機関が個別指定される在留資格(「特定技能」、「高度専門職1号」、「特定活動」)の転籍は、在留資格変更許可が必要

労働施策総合推進法に基づく手続

外国人雇用状況の届出(雇入れ、離職)〔企業〕


(注1)本人に課される届出として、他に住居地の届出、(一部の在留資格について)配偶者関係に関する届出等がある。
(注2)「技能実習」及び「特定技能」については、他にも事業者(実習実施者、監理団体、特定技能所属機関、登録支援機関)に課される届出等が多くある。

第3 法律についての理解
 近時の外国人法制においては、入管法制(技能実習法を含みます。)と労働法制が交錯する接点が増えています。その類型として、①入管法制への労働法的観点の取込み、②労働法制への入管法的観点の取込み、③労働法制と入管法制の連動に分類できます。

 ①入管法制への労働法的観点の取込みとは、入管法や技能実習法の条文において労働法的観点からの規制がなされること等をいいます。②労働法制への入管法的観点の取込みとは、労働法の解釈に、その対象が入管法や技能実習法の適用を受ける労働者であるという特殊性が反映されること等をいいます。③労働法制と入管法制の連動とは、労働法に係る法律行為や法律効果の発生に伴い、入管法や技能実習法に基づく手続が求められること等をいいます。

 上記のとおり、近時の外国人法制においては、入管法制と労働法制が交錯する接点が増えているところ、外国人労務管理においては、入管法制又は労働法制を単体で知っているだけでは不十分です。両法制に精通した上で、相互に及ぼし合う影響等を理解し、交錯する接点に的確に対応しなければなりません。両法制とも複雑化が著しく進んでおり、外国人労務管理及びそのための助言・指導にあたっては極めて高い法的専門性が求められるようになっています。

以上


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<著者プロフィール>

山脇 康嗣

さくら共同法律事務所パートナー弁護士
慶應義塾大学法学部法律学科卒業
慶應義塾大学大学院法務研究科専門職学位課程修了
現在、慶應義塾大学大学院法務研究科非常勤講師(入管法担当)、慶應義塾大学大学院法務研究科グローバル法研究所(KEIGLAD)客員所員、第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(出入国在留管理庁との定期協議担当)、日本弁護士連合会多文化共生社会の実現に関するワーキンググループ委員

外国人に関係する企業(監理団体、登録支援機関及び日本語学校を含む。)及び入管業務・技能実習業務を手掛ける行政書士・弁護士の顧問並びに監理団体の外部監査人を多数務める。

<主著>
『詳説 入管法と外国人労務管理・監査の実務―入管・労働法令、内部審査基準、実務運用、裁判例―〔第3版〕』(新日本法規、令和4年)単著
『特定技能制度の実務』(日本加除出版、令和2年)単著
『技能実習法の実務』(日本加除出版、平成29年)単著
『入管法判例分析』(日本加除出版、平成25年)単著
『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規、平成24年)編集代表・執筆
『外国人及び外国企業の税務の基礎―居住者・非居住者の税務と株式会社・合同会社・支店の税務における重要制度の趣旨からの解説―』(日本加除出版、平成27年)共編著
『円滑に外国人材を受け入れるためのグローバルスタンダードと送出国法令の解説』(ぎょうせい、令和4年)共著
『事例式民事渉外の実務』(新日本法規、平成14年)分担執筆
『こんなときどうする外国人の入国・在留・雇用Q&A』(第一法規、平成4年)分担執筆
「「特定技能2号」の対象分野拡大の意義と課題」季刊労働法283
「技能実習制度及び特定技能制度の改革の方向性」日本労働法学会誌135
「実務家からみた平成30年入管法改正に対する評価と今後の課題」季刊労働法265
「入管法及び技能実習法の実務と今後の課題」季刊労働法262
「一体的に進む外国人の受入基準緩和と管理強化」自由と正義20176月号

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