地域における外国人労働者の社会統合
―外国人集住都市Xを事例に―
東京大学特任助教 土田千愛
はじめに
日本各地で人口減少が喫緊の課題となる中、国家レベルでは、外国人労働者の受け入れが緩和され、地域レベルでは、外国人を地域の担い手と位置付け、施策を講じる自治体が増えてきています。このような政策的潮流を踏まえ、本稿では、社会統合という観点から、地域における外国人労働者との共生・共創の在り方を検討します。
社会統合政策は、出入国管理政策と同様に、外国人の受け入れに必要な政策だと言われています。日本では、地方自治体の主導によって発展してきた多文化共生政策が、日本の社会統合政策であると捉えられることがよくあります。外国人の社会統合の状況は、社会参加、文化受容、信頼関係など、様々な尺度で検証されます。このうち、本稿では、地域行事や防災訓練といった地域活動への参加、地域活動への参加に対する意識、地域に対する愛着という社会統合の一側面に焦点をあてます。
1.調査概要
本稿では、1990年代からブラジルなど南米諸国出身の外国人が集住するようになり、全国に先駆けて多文化共生に力を入れてきたX市を事例に取りあげます1。筆者は、東京大学の研究倫理審査(2023年10月17日承認)を経て、2023年11月20日から12月20日にわたり、X市に住む18歳以上の外国人3,600人を対象に郵送によるアンケート調査を実施しました2。調査票は、X市在住の外国人の主要な母語を踏まえ、8言語(やさしい日本語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語、ネパール語、英語、タガログ語、中国語)で用意しました。有効回答数は752件、回答率は20.9%でした。
本稿では、このアンケート調査の結果をもとに、地域における外国人労働者の社会統合について考えます。具体的には、外国人労働者のうち、「技術・人文知識・国際業務」(n=88)、「技能実習」(n=74)、「特定技能1号」(n=45)という在留資格を持つ者に焦点をあてます。また、就労していることを共通項として、「永住者」(n=248)、「定住者」(n=64)といった、いわゆる身分系の在留資格を持つ外国人にも着目します。
2.地域活動への参加
(1) 地域行事への参加
図1.地域行事への参加率 まず、お祭りやスポーツ大会など地域行事への参加率を見てみましょう。図1.より、法的地位の安定性ひいては定住傾向と比例するように、外国人労働者よりもいわゆる身分系の在留資格を持つ外国人の方が、地域行事への参加率が高いことが分かります。
(2) 防災訓練への参加
図2.防災訓練への参加率
次に、地域で開催される防災訓練への参加率を見てみましょう。まず、図1.と図2.を比べると、娯楽として気軽に参加できる地域行事よりも防災訓練の場合は、全体的に外国人の参加率が低くなります。また、在留資格別に見ると、防災訓練については、他の在留資格を持つ外国人に比べ、在留期間の定めのない「永住者」の参加率が圧倒的に高いことが分かります。
(3) 地域活動への参加に対する意識
図3.地域活動への参加に対する意識
今度は、地域活動に参加する必要性をどのくらい感じているのか、外国人の意識に着目します。図3.より、「永住者」や「定住者」といった身分系の在留資格を持つ外国人に比べ、「技能実習」や「特定技能1号」といった在留資格を持つ外国人は、地域活動に参加する必要性を強く感じていることが分かります。一方で、身分系の在留資格を持つ外国人と同様に、高度人材と言われる「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人の約半数は、地域活動に参加する必要性を感じていないことも明らかになりました。
3.地域に対する愛着
図4.地域に対する愛着
最後に、外国人の地域に対する愛着を確認します。図4.より、地域活動への参加状況や在留資格の種類にかかわらず、外国人の地域に対する愛着は、全体的に高いことが分かります。
4.外国人労働者も地域の担い手
以上の分析結果を踏まえ、地域における外国人労働者との共生・共創に必要な視点を考えてみましょう。
まず、外国人労働者の多くが、「スキルの獲得・将来のキャリア向上のため」、「お金を稼ぐ・仕送り(送金)のため」などの理由で来日し、居住場所が職場の事情によって決定されることが多い中、在留資格の種類にかかわらず、外国人の地域に対する愛着が全体的に高いことは、注目に値します3。受け入れ社会への帰属意識を育みやすくなるためです。
また、本調査によって、法的地位の安定性ひいては定住傾向が、地域活動への参加を左右することが分かりました。この点において、特に、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人については、地域活動に参加する意義を共有する必要があることがうかがえます。ただし、就労を目的に来日し、短期的に日本に在留する外国人労働者が、必ずしも地域活動への参加に消極的であるとは言えません。現状として、「技能実習」や「特定技能1号」の在留資格を持つ外国人は、地域活動への参加率は低いものの、大多数が日本で生活するために地域活動に参加する必要性を強く感じているからです。それゆえ、今後は、このような外国人労働者が地域活動に参加しやすくなるように、地方自治体、職場、自治会、近所の人々による積極的な働きかけが求められます。
総じて、在留資格の種類にかかわらず、たとえ在留期間が短期間であっても、同じ地域に居住している間は外国人労働者も社会の構成員かつ担い手の一人であることを、受け入れ側と当事者の双方が認識することが必要です。
5.なぜ外国人労働者の社会統合が重要なのか
外国人労働者に関するこれまでの政策を見ると、出入国管理政策と地域社会での受け入れの間に大きなズレがあります。1990年代より血統主義に基づき「定住者」として受け入れられた日系ブラジル人には、社会統合政策が不在のまま、不安定な労働市場に吸収される傾向がありました4。また、開発途上国に対する国際貢献として受け入れられた「技能実習」生についても、「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格を持ち、高度人材として受け入れられた外国人についても、人手不足が深刻化する産業分野で受け入れられた「特定技能1号」の在留資格を持つ外国人についても、就労や人権に関する政策的議論が盛んに行われる一方で、社会統合に関する検討は十分に行われてこなかったと言えます。その結果として、本調査を通し、地域活動という身近な社会参加において、「永住者」などとの差が顕在化していることが分かりました。今こそ、このギャップを埋める作業が必要不可欠です。
外国人労働者の社会統合は、彼らが社会の構成員として受け入れられて初めて実現します。このような相互承認には、個人のウェルビーイングを高めるだけでなく、社会の結束力を向上させるという相乗効果が期待できます。したがって、今後は、人口減少、地方創生など隣接する政策課題と関連させながら、既存の多文化共生政策を拡充させる形で外国人労働者の社会統合を促進し、地域における外国人労働者との共生・共創を図っていくことが重要になります。そして、支援者と被支援者、排除と包摂という二項対立を超え、持続可能でレジリエントな社会を、同じ地域で暮らす外国人労働者とともに追求していく必要があります。
注
1) X市によると、2023年10月末時点で、11,876人の外国人が居住していました。
2) 本調査は、東京大学地域未来社会連携研究機構とX市の連携協定に基づく令和5年度の受託研究事業として行われました。
3) 出入国在留管理庁「令和3年度在留外国人に対する基礎調査報告書」https://www.moj.go.jp/isa/content/001378514.pdf(2024年9月20日最終アクセス)
4) 梶田孝道・丹野清人・樋口直人(2009)『顔の見えない定住化―日系ブラジル人と国家・市場・移民ネットワーク』名古屋大学出版会。
著者プロフィール
土田千愛 TSUCHIDA, Chiaki, Ph.D.
東京大学地域未来社会連携研究機構特任助教。
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻「人間の安全保障」プログラム博士課程修了。博士号取得。多文化社会研究会理事。専門は、移民・難民研究、国際関係論。主な業績に、『日本の難民保護―出入国管理政策の戦後史』(単著、慶應義塾大学出版会、2024年)、『多文化社会の社会教育―公民館・図書館・博物館がつくる「安心の居場所」』(共著、明石書店、2019年)、『いのちに国境はない―多文化「共創」の実践者たち』(共著、慶應義塾大学出版会、2017年)など。第4回東京大学而立賞受賞、第2回若手難民研究者奨励賞受賞。