山脇 啓造
外務省と国際移住機関(IOM)の共催で、外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラム「共生社会の実現に向けた国内外の自治体連携」が、2025年2月13日に日比谷図書文化館(東京都千代田区)にて、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。海外登壇者はオンラインで参加し、国内登壇者は会場に集まりました。日英同時通訳があり、国内外から270名を超える参加者となりました。外務省とIOMが外国人受入れのテーマで国際会議を初めて開いたのは2004年度のことで、今回で20年目となりました。
会議は三部構成で、第一部では、宮路拓馬外務副大臣とウゴチ・ダニエルズIOM副事務局長の挨拶と総務省自治行政局の黒田夏子国際室長による総務省の自治体連携に関する取り組みの講演がありました。
第二部では、3つの事例発表があり、欧州評議会のリタ・マラスカルキ・インターカルチュラル包摂ユニット長がインターカルチュラル・シティ・プログラムについて、ウェルカミング・オーストラリアのテュルカン・アクソイ氏がオーストラリアの都市ネットワークであるウェルカミング・シティについて報告しました。この二つは移民包摂に取り組む国際的な都市ネットワークの代表的な存在と言えます。さらに、韓国安山市のチェヘヨン外国人住民行政課主務官によって、韓国の全国多文化都市協議会の活動紹介と安山市がインターカルチュラルシティに2020年に加入し、進めている取り組みについて報告がありました。3名とも都市ネットワークの意義としてグッドプラクティスの共有を挙げました。
第三部では、「国内外の自治体連携」をテーマにパネル討論を行いました。パネリストは、浜松市国際課の古橋広樹課長補佐、総社市人権・まちづくり課の譚俊偉国際・交流推進係主事、静岡県多文化共生課の石井亘課長、自治体国際化協会多文化共生部の百武和宏部長の4名で、モデレーターは筆者が務めました。
パネル討論の冒頭に、筆者は以下のようにテーマの趣旨を説明しました。
欧米諸国の国政選挙で移民政策が大きな争点となり、反移民を掲げる政党が支持を広げ、つい最近もアメリカで政権交代が起きた。一方、自治体レベルでは、移民包摂に向けた積極的な取り組みが進み、国際的な都市ネットワークも広がっている。第二部ではその代表例であるインターカルチュラル・シティとウェルカミング・シティの事例が報告され、韓国の全国多文化都市協議会の報告もあった。実は日本でも、2001年に外国人集住都市会議が始まっており、今日紹介された都市ネットワークの中でも最も歴史が長い。このパネル討論では、諸外国の取組みも参考にしながら、日本の自治体の国内外連携の成果と課題について議論したい。
パネリスト4人から、前半は国内ネットワークに関して、外国人集住都市会議と多文化共生推進協議会そして全国知事会に最近設置された共生社会実現に向けたプロジェクトチームについての報告がありました。後半は、国際ネットワークに関して、インターカルチュラル・シティに2017年に加入した浜松市の取組みの報告がありました。また、静岡県もインターカルチュラル・シティへの加入を検討していることが報告されました。ネットワークの成果としては、多文化共生都市としてのブランディング、グッドプラクティスの共有、社会へのメッセージ訴求力、施策評価の可視化などが挙がりました。一方、課題としては事務局の負担や提言活動の形式化が挙がりました。
パネル討論の最後にモデレーターとして筆者は、以下のようなコメントを述べました。
第一に、国内ネットワークに関して、日本の外国人集住都市会議は長い歴史を有し、国際的に見ても日本が誇るべき存在であり、国との対話を通じて成果を上げている。多文化共生推進協議会も同様である。今後のさらなる発展に向けて、クレアやJICAのような全国組織の支援を期待したい。
第二に、国際ネットワークに関して、静岡県が浜松市に続いて、インターカルチュラル・シティへの加入を検討しているのは明るいニュースである。第二部でインターカルチュラル・シティ指数の紹介があり、ウェルカミング・シティ・スタンダードも開発されている。また、IOMもマイグレーションガバナンス指数をつくっている。そうした指数を参考に日本独自の指数を開発することが今後の日本の自治体にとって有益かもしれない。また、外国人集住都市会議と韓国多文化都市協議会の交流も有益だろう。
第三に、日本が取り組んできた外国人集住都市会議や多文化共生の取り組みは、国際社会ではあまり知られていないが、今回のフォーラムで、特に英語でも発信されたことは重要である。外国人集住都市会議や多文化共生そして今回は取り上げられなかったやさしい日本語は、いずれも英訳の難しさという壁があるが、国際社会で反移民の言説が勢いを得ようとする中で、日本のこうした地道な取り組みが日本語と英語で発信されることには大きな意義があるだろう。
パネル討論終了後、外務省の岩本桂一領事局長から閉会の挨拶があり、3時間に及ぶ国際フォーラムは幕を閉じました。
外務省:外国人との共生社会の実現に向けた取組
国際移住機関:社会統合フォーラム・WS
欧州評議会インターカルチュラル・シティ・プログラム(英語)
豪州ウェルカミング・シティ(英語)
外国人集住都市会議 多文化共生推進協議会 山脇啓造「外務省」全国市町村国際文化研修所メールマガジン[2008年4月23日](2007年度の会議の報告)
山脇啓造「外務省の国際ワークショップ『多文化共生社会に向けて―女性の生活と活躍を中心に―』」自治体国際化協会コラム[2017年8月21日](2016年度の会議の報告)
山脇啓造「外務省の国際フォーラム『外国人住民への情報発信』」自治体国際化協会コラム[2021年3月4日](2020年度の会議の報告)
山脇啓造「外務省の国際フォーラム『在日外国人と医療』」自治体国際化協会コラム[2022年3月9日](2021年度の会議の報告)
山脇啓造「外務省の国際フォーラム『外国人住民への生活支援』」自治体国際化協会コラム[2023年2月28日](2022年度の会議の報告)
山脇啓造「外務省国際フォーラム『外国人の子どもの学習支援とキャリア支援』」自治体国際化協会コラム[2024年3月26日](2023年度の会議の報告)