外国人材活躍推進の制度化-浜松市の試み-
静岡文化芸術大学 文化政策学部 国際文化学科 准教授 佐伯康考
1.はじめに-制度の概要と背景
浜松市には3万人を超える外国人住民が暮らしており、「永住者」や「定住者」などの長期滞在が可能な身分系在留資格が約7割を占めているi。第3次浜松市多文化共生都市ビジョン(2023-2027年度)では、「相互の理解と尊重のもと、創造と成長を続ける、ともに築く多文化共生都市」を掲げ、「協働(異なる文化を持つ市民がともに構築する地域)」、「創造(多様性を都市の活力と捉え、発展していく地域)」、「安心(誰もが安全・安心な暮らしを実感できる地域)」という3つの方向性のもと、外国人市民との共創を通じた多文化共生都市としての創造と成長を目指しているii。
そうした姿勢の象徴的な取組の一つが、浜松市が令和3年度に全国の自治体で初めて制度化した、「浜松市外国人材活躍宣言事業所認定制度」である。同制度は浜松市内に所在する外国人材の活躍推進に取り組んでいる企業・事業所を認定・公表する制度であり、取組の公表を通じて外国人材の確保・定着・活躍促進ならびに就労環境の向上を目指している。令和3年度に20事業所、令和4年度に9事業所、令和5年度に5事業所、令和6年度に8事業者が新規認定を受けており、令和6年度末の認定事業所数は40まで増加している(2年ごとに認定更新が必要)。
2.認定事業所側のメリットと申請要件
認定事業所が認定を受けることのメリットは大きく4つある。第一に、「外国人材活躍宣言事業所」として、浜松市や浜松国際交流協会のホームページなどに掲載されることにより、企業の認知度やイメージ向上に寄与するほか、認証マークを自社ホームページやパンフレット等に掲載することにより、活躍の場所を求めている外国人材をはじめとする国際的な職場に関心がある多様な人材からの積極的な仕事への応募が期待できる。
第二に、認定事業所は浜松市が発注する建設工事の入札における総合評価落札方式の評価項目において加点を得る事ができる。また浜松市が発注する物品購入や業務委託における優先調達といった優遇措置の対象ともなるため、外国人材活躍を促進することへの経営上のインセンティブを浜松市として提供する制度設計になっている。
また第三のメリットは日本語教育面のサポートであり、認定事業所はオンライン日本語学習プログラム(e-learning)の提供を最大3名分まで受けることができる。さらに外国人材等の日本語能力試験N3以上の認定取得に際し、事業所が負担した日本語学校や日本語教室への就学に要する経費の2分の1以内の経費補助を受けることができる。同補助は令和5年度まではN2以上を補助対象としていたが、令和6年度からは対象レベルをN3以上へと緩和し、より幅広い学習者への支援が可能となった(N1とN2は1名につき50万円が上限、N3は1名につき40万円が上限)。
さらに第四のメリットとして、外国人材の定着支援と日本人社員への異文化理解研修などについての助言・サポートを多文化共生分野の専門家から受けることができる。これら4つのメリットを事業所側に提供することにより、外国人材が活躍しやすい就労環境・企業風土を事業所側が醸成しようとする機運を醸成している。
次に認定制度の申請要件についてであるが、まず事業所が申請する日の属する年度の4月1日現在において、1年以上浜松市に所在していることが必要である(本社が浜松市以外に所在していても、事業所単位で上記の条件を満たしているのであれば申請可能)。また外国人材を1名以上雇用し、安心・安全に働くことができる就労環境づくりに取り組んでおり、能力発揮・活躍促進・職域拡大のための取組をしていることが必要である。なお当然のことながら、労働関係法令並びに出入国関係法令等に違反がないこと及びその他法令又は社会通念上、認定するにふさわしくないと判断される事由がないことも要件である。
申請後の選考プロセスは最初に書類審査が行われ、通過した事業所に対して訪問調査が行われる。そして調査結果を基に委員会での審議が行われた後、審査結果が決定される。審査のチェック項目は60項目あり、45項目が社会保険労務士により評価、15項目は多文化共生マネージャー等によって評価されるiii。
3.課題と展望
浜松市外国人材活躍宣言事業所認定制度が令和3年度に開始されて以降、市内外における認知度が高まり、外国人材の活躍促進に問題意識を持っている他自治体においても同様の制度導入について検討が行われるなど浜松市の先進的な取り組みを評価する声は多い。
他方、認定事業所が増加する中で、制度の今後の発展に向けて検討すべき課題も幾つか存在している。まずは制度を拡大する中での認定基準の整理である。認定事業所が40を超えるまで増加する中で、認定事業所の中でも、国内外から先進的事例として注目を集めるような企業もあれば、外国人材活躍のための取り組みを本格化させたばかりの企業など、企業ごとに置かれている状況は大きく異なる。もし仮に先進的企業の水準に合わせた認定要件を全事業所に課した場合、高すぎるハードルが企業の外国人材雇用への意欲を削ぐ結果となる恐れもあり、量と質の両方をいかに担保するかは認定制度に共通の課題であると言える。
こうした課題を克服するために、厚生労働省による「子育てサポート企業」の認定(「くるみん認定))では、「くるみん認定」を既に受けている企業のさらなる取組を促進するために、「プラチナくるみん」認定を平成27年4月から開始した。さらに、令和4年4月には、「くるみん認定」と「プラチナくるみん」の認定基準引き上げに伴い、「トライくるみん」を創設している。
さらに、不妊治療を受けながら安心して働ける職場づくりに取り組んでいる企業は「プラスマーク」認定を追加し、「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」「トライくるみんプラス」認定の企業として内外に取り組みをPRすることができるなど、多様な企業の取り組みが評価される制度設計となっている。
子育てサポート企業等の認定制度に比べ、外国人材活躍事業所の認定制度はまだ歴史も浅く、改善・発展の余地を残している。生産年齢人口の減少が加速する中で日本社会における外国人材の重要性はさらに高まることが予想されており、外国人材を含む多様な人材がそのポテンシャルを発揮できる職場環境を整備することは社会的に極めて重要である。世界における日本の立ち位置も大きく変化する中で、多様な仲間たちと共に新しい価値を創造しようとする姿勢の有無は、企業と地域の未来を大きく左右する要因の一つとなるだろう。
本研究はJSPS科研費21K13246, 21K18130の助成を受けたものです。
参考文献
i 出入国在留外国人管理庁「在留外国人統計」(2024年6月)
ii 浜松市「第3次浜松市多文化共生都市ビジョン」
iii 浜松市「外国人材活躍宣言事業所認定制度について」(2022), JP-MIRAI「受入企業・団体等の認証について考える研究会」
著者プロフィール
佐伯康考
静岡文化芸術大学文化政策学部国際文化学科准教授。東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室特任助教、大阪大学大学院国際公共政策研究科特任准教授などを経て現職。博士(経済学)。専門は国際労働力移動論・多文化共生論。著書に『国際的な人の移動の経済学』などがある。静岡県多文化共生審議会委員、第11次静岡県職業能力開発計画検討委員会委員、移民政策学会理事。